シャニマス半年やってみた所感

アイドルマスター シャイニーカラーズ」(以下シャニマス)というゲームをインストールしてから、おおよそ一年が過ぎました。最初の方はほぼ放置状態だったので、実質的にプレイしたのは半年ほどになります。

わたしがシャニマスに興味を持ったきっかけを書いておくと「明るい部屋」というシナリオイベントをTwitterで聞き知ったことです。『明るい部屋』と言ったらロラン・バルトの引用じゃないか、いったいどんなアイドルゲームなんだ……と、文学院生としては興味を惹かれざるを得なかったわけです。以下に書くとおり多くの不満点は感じつつも、おおむね楽しませてもらっていると思います。

今年もそろそろ終わりますから、このあたりで一度、このゲームについて思うところをポジティブ・ネガティブ両面でまとめておきたいと思います。なお基本的には微課金、グレードフェスはLv.4という極めてしょうもないレベルのユーザーによる評価だということを、あらかじめ断っておきます。

 

シャニマスのよいところ

これは何と言ってもキャラの魅力であり、彼女たちを彩るイラストとシナリオでしょう。もはや語り尽くされていることですから、ここには詳述しません。わたしが初めてW.I.N.GでTrue Endを見たのは七草にちかというキャラなのですが、正直、思わず落涙したのを覚えています。このキャラクター、たぶん「反抗期の娘がいる気分を味わいたい独身ミドル層男子」を狙った造形かなと思うのですが、自己表現の夢を追いながら何者かのコピーに甘んじるほかない、どこまでも凡庸な彼女の姿は、現代の少年少女の多くが共有する心象を、そのまま体現しているような感もあります。彼女に自分を重ねる十代のプレイヤーも多いのではないでしょうか。

 

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わたしのいちばん好きなキャラは有栖川夏葉です。社長令嬢にして頭脳明晰容姿端麗、フィジカル面の鍛錬を怠らない自信と向上心に満ち溢れたキャラクターですが、他方で同じユニットの年下の少女たちと一緒にはしゃぎ回ったり、焼きそばにプロテインを入れようとして怒られたりと子供のような一面もあり、そういうところが所謂「ギャップ萌え」ということになるのでしょうか。

とはいえ、それを「ギャップ」とは感じさせないところにこそ、彼女の本当の魅力があるのではないか、とも思います。育ちの良さゆえの子供っぽさとでも言えばいいのでしょうか。これは個人的な体験ベースの話になってしまうのですが、わたしがこれまでの成長過程で会ってきた所謂「良家の子女」たちは、たいてい驚くほど無邪気です。きっと彼ら彼女らにとって、世界は畏怖や疑念の対象ではなく、どこまでも刺激と愉しみに溢れた場所なのでしょう。世界と自分とは本来的に幸福な関係で結ばれていて、自分が求めるほどに、世界はその求めに応えてくれるはずだという確信――単純な金銭的余裕や学力ではない、「育ちの良さ」という特権の本質はそこにあるのだと、ティーンエイジャーだった頃のわたしは、嫉妬混じりに感じていたものです。わたしが夏葉に惹かれるのは、彼女の見せるそのような身振りひとつひとつに、何か自分の体験と不可分の「育ちの良さ」への羨望を喚起させられるからなのかもしれません。

 

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にちかや夏葉だけではなく、シャニマスのキャラクターには、どこか妙な実在感があります。それは言い換えれば「リアリティ」ということになるのでしょうか。当然ながら、あんな風に年上のサラリーマンを慕ってくれる美(少)女たちが現実世界に存在している、と言いたいわけではありません。しかし「こういう人を、どこかで見たことがある気がする」とそう思わせるようなキャラ造形の強度。これこそシャニマス最大の美質だと思っています。

 

ゲームとしてはどうか

ここまで、シャニマスに感じた魅力について、それが端的に「シナリオとキャラ」によるものであることを述べてきました。ここからはゲームシステムの方について踏み込んでいきます――が、結論から言えばこっちは不満だらけです。

内容について論じる前に、シャニマスというゲームの簡単な流れを確認しておきます。

プレイヤーはまずガチャを引き「プロデュースアイドル」と「サポートアイドル」を入手します。そして「プロデュースアイドル」1人と「サポートアイドル」4+1人でグループを編成し「プロデュース」をします。現在4種類の「プロデュース」形式がありますが、いずれも「プロデュースアイドル」を育成して「ライブ」での勝敗を競うという点で共通しています。これを終えると「プロデュースアイドル」は、その育成成果に応じた「フェスアイドル」となります。で、プレイヤーはこの「フェスアイドル」を集めてまたグループを編成し、今度は「グレードフェス」(グレフェス)と呼ばれる方式のライブに挑むことになります。かくして、育成とライブを繰り返して強くなるというのが、大筋の流れになるわけです。

シャニマスの特徴は、このライブの形式が、いわゆる音ゲーにはなっていないという点にあります。つまりリズムに合わせるという要素はなく、単なる目押しです。具体的に言えば、何色かに色分けされたゲージをバーが行き来しており、白い部分に差し掛かったところで画面を叩くと成功、逆に緑や紫の部分で叩くとミス扱いになります。これにまた「流行」や「テンションチェック」などの運要素が絡んでくるわけです。

このシステムには、大きく分けて2つの問題があると思います。1つには、「目押し」それ自体がほとんど何のゲーム性も持っていないということです。紙芝居のような背景から浮かび上がってくる謎の棒を、適切なタイミングでタップするだけの簡単なお仕事。もちろん状況に応じて「思い出アピール」のタイミングを見計らうとか、敢えてPerfectではなくGoodを取ることでラストアピールを狙うとか、戦略的な思考が介在する余地がないわけではないのですが、それにしたって原理的な単調さは拭いがたい。これなら育成要素だけでいいじゃないかと思わせかねないこの単調さを、どう解消するか。

――というような問題意識のもと(かどうかは知りませんが)、去る今年10月、シャニマス運営が提示してきたソリューションが以下の画像です。

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期間限定イベント、その名もフェスツアーズ。画面から想像されるとおり、ひたすらライブを繰り返して一歩ずつ前進していくというこのイベントは、その報酬ラインの高さによって、いっそう苦行の度を強めています。例えば、今回の目玉報酬である櫻木真乃の衣装「ドレスアップパルファム」を手に入れるためには、ライブを480回ほどクリアする必要があります。

そもそもライブ=「目押し」がつまらないのが本質的な問題なのに、ライブを何百回もやらせるイベントを実装する、これほどの背理はありません。これは、シャニマス運営が問題を解消するアイディアや能力を持っていないか、あるいは「ライブがつまらない」という問題意識じたいを共有していないかのいずれかであることを示唆しています。つまり改善の見込みがあまりなさそうだ、ということです。

もうひとつの問題は、このライブ=「目押し」システムが、楽曲ともダンスとも繋がっていない――つまりアイドルの本質を構成する「歌と踊り」とは何の関係もないという事実です。もとよりデレステにせよスクフェスにせよ、アイドル系コンテンツのソシャゲは、音ゲーであることによってその強みを活かしてきました。つまりゲーム体験を重ねるほどに、プレイヤーは様々な楽曲をプレイし、その音楽群が織り成す世界観の中へと自然と入り込んでいけるという仕掛けです。そこにまた、3DCGによるダンス映像が加わることもあるでしょう。

シャニマスの場合、「歌と踊り」の魅力とゲームシステムとが、ほとんど連動していません。せっかくの楽曲群は、ライブ=「目押し」のバックミュージックとして流れるばかりで、ゲームの体験の中に組み込まれていない。したがって、アイドルコンテンツであることの強みが発揮されておらず、プレイヤーの記憶に残るのは、ライブ後に表示されるしょっぱい動画と「今話題のアイドルたちが登場!圧巻のパフォーマンスを披露!」という謎の文言ばかりです。何がどう「圧巻」なんだ……。

音楽面について言えば、シャニマスはやはり全体曲やユニット曲よりも、個々のキャラの個性を活かしたソロ曲の方に強みがあると言えます。「Damascus Cocktail」や「夢見鳥」もいいですが、個人的には「プラスチック・アンブレラ」がいちばん好きですね。余談になりますが「驟雨、今夜降るでしょう/無数、歩く人/人、人、人……」というフレーズは、どことなく『ノルウェイの森』のラストシーンを連想させます。

まるで世界中の細かい雨が世界中の芝生に降っているようなそんな沈黙がつづいた。(中略)僕の目にうつるのはいずこへともなく歩きすぎていく無数の人々の姿だけだった。僕はどこでもない場所のまん中から緑を呼びつづけていた。(『ノルウェイの森』)

これは完全に妄想ですが、たぶん三峰は村上春樹を愛読しているタイプだと思うんですよね。大学のゼミで一緒だったハルキストの女に雰囲気が似ている。

……それはさておき、これらの楽曲は、単純にクオリティが高いだけではなく、聴いた瞬間、彼女たちのキャラクターや物語が自然と浮かんでくるというのがキモです。キャラクター・ビジネスに求められている楽曲の特質とは、まさにこの種の喚起力でしょう。このような優れた楽曲群を、もっとゲームの中に有機的に組み込めたら、また異なる地平が見えてくるのではないかという気がします。

 

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「シナリオが面白いソシャゲ」の陥穽

これまで書いてきたことをまとめると「シャニマスはシナリオとキャラに魅力がある」「しかしゲーム性は乏しい」ということになります。とするとシャニマスの本質的な価値は「金か時間を払ってシナリオを買う」という営為に存していることになってくる。しかしこれもまた、色々と問題含みだと思うのです。

単純な話、「課金してシナリオを購入するゲーム」というものを提案されたとき、人はどう思うでしょうか。「動画サイトで転載動画を見る」という考えが一瞬も思い浮かばなかった人は、今日かなり例外的な良識を維持している人だと思います。一般的な現代っ子は「Youtubeか何かでちゃちゃっと見ればいいじゃん」と考えるでしょう。

実際、二次創作や実況プレイ動画では人気なのに、それがいまひとつアクティブの増加に繋がっていない印象があるのは、この点に原因がある気がします。シナリオの良質さは、必ずしも「自分もやりたい」という欲望には繋がらないわけです。そうなるとプレイヤー層の裾野は広がらず、収益を上げるためには一部のコアユーザーからとことん搾り取っていくしかなくなり、それが「有償ガチャ」の乱発に繋がって、さらに裾野を狭めてしまう、といった悪循環がありはしないか。

こう考えていくと、そもそも「良質なシナリオをがっつり読ませたい」というコンセプト自体が、ソーシャルゲームという形式と相性が悪いのではないか、という疑問が湧いてきます。

これは前述した商業上の事由だけではありません。ソシャゲはその存在論的な要件として、絶えず自らを更新し続けていくことが求められます。つまり、そこで展開される物語は、一個の物語としては完結し得ないまま、どこまでも建て増し住宅化していくことになるわけです。

それがシナリオの質に及ぼす影響は、今は措いておきましょう。建て増し住宅化するということは、プレイヤーの側にとって、把握しておくべき設定やエピソードが不可逆的にどんどん増えていくということを意味します。よって必然的に、新規参入のハードルはその分だけ高くなります。気になるキャラを見つけてシャニマスをインストールしたけど、読むべきシナリオが多くて追いつけない、なかなか手に入らない限定コミュが沢山ある、ファンコミュニティは自分の知らない話で盛り上がっている……新規ユーザーの誰しもが、こうした思いを味わうことになるでしょう(私もそうです)。

 

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もっともソシャゲにおいて「新参」と「古参」、あるいは「ライト勢」と「ガチ勢」の格差は付きものです。しかし大抵の場合は、修正資本主義よろしく運営側が「新参」「ライト勢」向けに強いカードを配ったり、無料でガチャを回させたりすることで、ある程度はこれを解消することができます。しかしシャニマスのように、どちらかと言えば「強さ」というより「シナリオとキャラの理解度」が問われるタイプのゲームの場合「ライト」と「ガチ」の溝は、容易に埋め得ないものになってしまう。資金もそうですが、時間的投資の差がもろに出てくるからです。

また多くのソシャゲでは、物語を切り詰めて単純化・記号化しているため、こうした問題が見えにくくなっています。ソシャゲのシナリオがつまらないのは、こうした形式上の制約が確実にかかわっていると思います。この点、シャニマスはまさにシナリオを売りにしているゲームであるがために、この問題があからさまに顕在化してしまうわけです。よく言われる「シャニマスは新規が定着しない」という噂が真であるならば、それは運営の不手際というより、そもそもコンセプトそのものがソシャゲに向いていないという、身も蓋もない事実に起因しているような気もします。

 

シャニマスのこれから

わたしがシャニマスをプレイしていて思うのは、もしこれがコンシューマーゲームとして世に出ていたら、傑作として名を残したに違いない、ということです。このコンテンツ全体が、どこか古き良き時代のノベルゲームの雰囲気をまとっています。運営が目指しているのも、そういう方向性のはずです。それをソシャゲの形に無理に合わせようとしたために、何か様々な面でちぐはぐさが生じてしまっているのではないか。

思えば、昨年末にプチ炎上した「方言アイドル好き必見」「元ヤンキー」云々といったクソ広告の数々は、「ノベルゲーム的なもの」と「ソシャゲ的なもの」という、シャニマスに内在する2つの方向性が、露骨な齟齬を示した出来事だったのではないでしょうか。その2つの方向性の間で、どうバランスを取っていくか。これからのシャニマスの課題は、このあたりにあるのかなと思います。