2018年上半期読んだ本

 ひとまずメモ的に。冊数の少なさに怠けぶりがあらわれていて気恥ずかしいですね……

 

・雑誌、コミック、学習参考書、ライトノベルに類するものは除く

・最後まで読んでいない本は除く

・図書館で借りた本など、現在手元にない本は除く

・順不同

 

『背教者ユリアヌス』辻邦生・全四巻

 長い。長いですが、最後までわりと一気に読めます。何と言っても面白いし。

 血なまぐさい謀略から青春恋愛ものになったかと思ったら、裁判、皇后との禁断の愛、そして副帝へ、戦争へ……! 古代の神々が現れてユリアヌスに啓示を与えるみたいな、古代の物語ならではの幻想小説的な描写も好きですね。

 辻邦生の文章は相変わらず甘く美しく、特に出だしとラストの描写は凄いです。この大長篇の悲劇と美しさの全てが詰まっているような気がします。

 

『廻廊にて』辻邦生

 残された日記や手紙から、不運のうちに死んだロシア人女画家マーシャの生涯と救済を追っていくというスタイルの小説。主人公と語り手を分離させるやり方は、『夏の砦』でも使われていましたね。

 構想よりも大きく膨らんでしまい、遂に小説の中心人物にまでなってしまったらしい美少女アンドレが非常に魅惑的。主人公マーシャが「もうアンドレのことしか考えられない!  アンドレ愛してる!(意訳)」ってなってる場面とかすごくかわいい。少女同士の魂の繋がりってやっぱり素敵だよなあ……

 

『複製技術時代の芸術』ベンヤミン

 今まで読んでなかったんかい、と言われると恥じいるしかない必読文献。政治の耽美主義に対抗して、コミュニズムは芸術を政治化させるのだ。

 

『深い河』遠藤周作

 遠藤周作の傑作長篇、ということになっていますが、個人的にはイマイチ。説教がましく類型的で、妻との死別とか美津子の描写とか、何だか全体的にメロドラマっぽさを感じてしまって……。三條夫婦とか非常に安易な悪役で、もう全部こいつらが悪いよという感じで事態が推移していきます。奥さんを大切にせずに死なせたくせに、三條がバスに妻を置いていっただけでケシカランと陰口をきく磯辺とか、一体何なんでしょうね。

 日本のキリスト教文学と言っても、これなら「少女小説乙ww」とか評論家に馬鹿にされてた三浦綾子の『氷点』とかの方が、よっぽど面白かったなあ。

 

『イエスの生涯』遠藤周作

 これは面白かった! 民族運動の指導者として期待されながら、最期まで愛に生きて死んだ無力な男としてイエスを描き出してみせた書物です。勿論宗教的、歴史学的見地から見てどの程度妥当性があるのかは分かりませんが、読み物として素敵でした。

 

『R帝国』中村文則

 いつもの如くもっともらしい政治的言説をくっつけたおままごと三文ポルノ小説。全てにおいて幼稚すぎてまともな大人はまず読めないでしょう。『土の中の子供』もひどかったし『教団X』も作家志望の中学生が書いたアダルトビデオの脚本みたいな代物だし、この作家に関してはちょっと生理的嫌悪に近い感情を抱いています。

 

『大いなる遺産』ディケンズ・上下

 必読と言っていい古典的名作なので今更詳述もしませんが、もうべらぼうに面白いです。成り上がりと転落、ジョーやハーバートとの美しい友情、胸を焦がす恋……それほど長い小説ではありませんが、ここには小説の面白さの全てが詰まっているような気さえします。まあそんなことはともかく令嬢エステラがとてもかわいいです。ずっとつんつんしてるプライドの高い女なんですが、最後の最後でやっとデレてくれる。

 

『楡家の人びと』北杜夫・全三巻(再読)

 通読は三回目。私の中ではオールタイムベストとも言える小説で、高校二年生のときに三島由紀夫の絶賛に導かれてこの小説と出会っていなかったら、少なくとも文学部には入ってなかっただろうなとさえ思います。

 やはり何度読んでも圧倒されます。伊助じいさんが飯を炊く描写から始まり、視点を徐々に広げて病院の生活を活写していく冒頭部分からして、こんなに魅力的な小説の出だしは未だに読んだことがありません。没落の果てのラストシーンと残酷な対比を成す場面でもありますね。

 ブラジル移民を描いた『輝ける碧き空の下で』を読んでいても思いますが、北杜夫ほど「市民」というか、社会を動き回る群像をうまく描いた作家は、日本の文学史上でも稀なのではないでしょうか。多種多様な人物がこれでもかと登場し、それぞれに協力したり反目したりしながら、全てが非人称的に時の流れの中に押し流されていく。無常感に満ちてはいますが、『楡家の人びと』には、何だかそれらをもひっくるめた人生賛歌のような清冽な明るさをも感じます。優れたユーモアによるものでしょう。

 とにかく日本近代文学の傑作中の傑作。日本語が読めるなら、何を措いても読むべき小説だと思います。

 

『木霊』北杜夫

 初期作品『幽霊』の続篇。ドイツから日本での不倫生活を回想するというもの。トーマス・マンへの思慕が美しい。

 

『トニオ・クレーゲル』トーマス・マン

 ↑の作家が決定的な影響を受けた世界的作家の青春小説……ですがなかなかとっつきにくい印象。『ブッデンブローグ家の人びと』を読んだときもそうだったのですが、個人的にトーマス・マンはわからない作家です。

 

『監督 小津安二郎蓮實重彦

 この批評を読むために小津安二郎の映画を観ました。薬を貰うために病気になるみたいなあべこべ感がありますね。

 

『暗夜行路』志賀直哉

 志賀直哉唯一の大長篇。個人的には終始何が面白いのか分からず、終盤、奥さんに暴力を振るう主人公にドン引きしました。「自分はずっとこの人についていくのだ」とか、よく思えるなあ。ずっと時任謙作の視点だったのに、ここだけ奥さんの心理に踏みいった描写になってるのも不思議。誰かこの小説の良さを教えてほしい。

 

フランクフルト学派細見和之

 アドルノベンヤミンが属し、反ユダヤ主義との対決やマルクスフロイトの統合などを試みた「フランクフルト学派」についての入門書。「アウシュヴィッツの後で詩を書くことは野蛮である」という言葉は今も変わらず恐ろしい。アドルノも読まなきゃいけないなあ……

 

『終焉をめぐって』柄谷行人

 ゼミ発表の資料として。

 

石原慎太郎を読んでみた』豊崎由美栗原裕一郎

 タイトルの通り石原慎太郎の小説の書評。「行為」は書けるが「心理」が書けない作家。

 

『螢・納屋を焼く・その他短篇』村上春樹

 初期短編集。村上春樹は短篇の名手ですが、これはなんかいまいちな作品が多かったですね。表題作の『螢』も(著者の言うとおり)文章が荒い気がします。

 

『東京綺譚集』村上春樹

 ↑と同じく短編集。これは素晴らしかったです。とりわけ『ハナレイ・ベイ』は春樹嫌いの人にこそ読んでほしい短篇。多分村上春樹のイメージが変わると思います。

 

国境の南、太陽の西村上春樹

 村上春樹最大の怪作『ねじまき鳥クロニクル』から派生した長篇。主人公がクズ過ぎて面白いという以外には特に……

 

キリスト教の歴史 』小田垣雅也

 タイトル通り、キリスト教2000年の歩みを綴る。そのスケールのわりには258頁と短めで、入門書っぽいのですが、思想や哲学にまつわる記述はやはりなかなか難しいです。トマス神学やプロテスタントについてある程度の基礎知識がないと厳しい印象。

 

『深読み日本文学』島田雅彦

 タイトルに反してそれほど「深読み」はしていません。日本近代文学史の概論的理解には適しているかも。

 

『日本近代小説史』安藤宏

 日本文学の研究入門書。タイトル通りの内容であまり言うこともありません。ゼミ発表では非常に役に立ちました。

 

『日本文学史小西甚一

 これもタイトル通り。私小説に対してはやはり批判的。

 

『風俗小説論』

 花袋の『蒲団』以降の日本の私小説が、実はロマン主義の弊害を色濃く受け継いだ存在であることを明らかにし、それが自然主義リアリズムと誤解されてしまっているということを指摘する書物。私小説批判という意味では、小林秀雄の『私小説論』と並んで有名かも。

 

田山花袋『蒲団』

 ↑でボロカスに言われている小説。赤裸々な告白体で日本に於ける自然主義の先駆となった小説ですが、実は実話ではないらしいですね。

 

『病気と日本文学』福田和也

 これは面白かったです。慶応義塾大学での講義をまとめたものですが、病気という観点から日本近現代文学に於ける「写生文」「自己と他者」「身体と精神」」「自殺」「狂気」といったテーマが紐解かれていきます。

 

『批評理論入門』廣野由美子

 ゼミの先生に薦められて。『フランケンシュタイン』を題材に、ポストコロニアルジェンダーなど、様々な文学批評の視点を紹介するというものです。

 

桜の園チェーホフ

 太宰の『斜陽』の原型となった戯曲。美しい土地を失う一家の物語。没落する貴族階級、家族の愛と対立、「桜」のモチーフなど個人的に好みの要素が満載で楽しく読めました。