『リズと青い鳥』感想

(以下、『リズと青い鳥』の内容に触れる文章になります。できるだけ核心部分はネタバレしないようにはしていますが、気になる方は読まないようにお願いします)

 

京都アニメーションの新作アニメ映画『リズと青い鳥』観に行きました。

 

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手っ取り早く結論から言えば、コッテコテの、純度100%の青春恋愛劇でした。言うまでもなく女同士の。

 

確かに『響け! ユーフォニアム』は、それ自体いわゆる「百合」色の強い作品ではありました。しかし久美子にせよ麗奈にせよ、恋をする相手はあくまで男であり、彼女たちの熱い関係性は、ひとえに音楽への真摯な情熱によって成り立っています。

この映画で描かれる、みぞれの希美に対する想いは、音楽への想いというものを超えて、まさしく全人格的な「愛」そのものに見えます。相手の何もかもがたまらなく好き、永遠に我がものとしたい、彼女が私の全て、というようなレベル。しかし希美は彼女の想いなんて知らずに、持ち前のコミュ力で他の女の子と仲良くしている……このへんの関係性は、百合もので言えば入間人間さんの『安達としまむら』を思い出しました。

 

さてこの映画は、そんなみぞれと希美の関係の変化をひたすら丹念に美しく描き出すことを目的とする映画であり、それ以外の不純物は綺麗に排除されています。

例えば『響け! ユーフォニアム』1期では、部内政治、2期では親や姉との確執というように、いずれも何かしら「イヤな面」や「あまり見たくないもの」が描かれていました。

リズと青い鳥』には、そういう面は殆どありません。画面を構成するのは端正なもの、あるいは少女たちの邪気のない可憐な姿ばかりで、そしてその全てが、みぞれと希美の関係を美しく飾ることに奉仕しています。この「美しいものしか描かない」という姿勢が、この映画を結晶のように透徹したものにしています――悪く言えばいささか単調な。

 

 

まず良かったところ。吹奏楽をテーマに据えた映画だけあって「音」の表現はこだわり抜かれ、非常に印象的でした。キャラクターの心情の機微を無言のうちに描き出す演奏シーンは勿論、ほんの些末な物音に至るまで神経が行き届いています。こればかりは実際に映画館で観なければわからないところでしょう。冒頭、みぞれと希美の足音が重なり合うシークエンスも、地味ながら彼女たちの関係をよく暗示していて魅力的。

 

またこの映画では、みぞれと希美の関係性の暗喩として『リズと青い鳥』という作品内小説が重ねられています。

孤独の中に暮らすリズの許にひとりの少女がやって来る。彼女たちは一緒に暮らす中でお互いにかけがえのない存在になっていくが、ある朝リズはその少女が青い鳥であることを知ってしまう。自らの愛のために少女の翼を奪って良いのかと悩んだ末、、リズはその少女を空へ帰す、「カゴを開ける」決断をする――こんな話です。しかしみぞれは、リズが自らの愛を手放す理由がどうしても理解できない。私なら、ずっと「鳥」=希美をカゴに閉じ込めておくことを望むのに……と、これがこの映画の大きなテーマとなります(こうして書くとヤンデレっぽい…)。

童話を暗喩として用いること自体は、ありがちですし、もしかしたら意図が見え透いているだけ陳腐と言えるかもしれません。僕も途中までは「どうせみぞれが「鳥」=希美を手放す決断をして終わるんでしょ」と思っていました。

しかし、勿論この映画はそんな単純なところでは終わりません。つまり、そもそも「鳥」は本当に希美なのか?本当はみぞれこそ「鳥」なのではないか?ということです。これ以上詳述はしませんが(この時点で相当なネタバレのような気も……)、この解釈の転回と、それが導くすれ違いの切なさ、さらに和解へと至るクライマックスには、確かに胸を打たれました。

 

 さらには、みぞれと希美の関係において、「カゴ」にあたるのは、他でもない「学校」です。この映画は、冒頭とラストを除いて、校舎から外にカメラが出ることはありません。プールもあがた祭りも、このフィルムには映されません。画面は学校に限定されているわけです。

それは学校が永遠に続くことを願う、みぞれの心象風景でもあるのでしょう。そんな彼女が、ついに学校から出ていくところを映して、この映画は幕を下ろす。単なる下校シーン、映画の末尾を飾るにはあまりに地味にも思えるシーンは、しかしこの場面以外にはありえないというような必然性を有しています。

 

 

 個人的な不満点を言えば、やはり起伏の乏しさ、物語としてのスケールの小ささが気になりました。そもそも手法として舞台を学校に限定したために、また「本番」を描かなかったために、どうしても動的な広がり、ドラマチックな場面を演出しにくいんですね。

 また「美しいものしか描かない」ために、『響け! ユーフォニアム』1期にあったような部内政治のイデオロギーの拮抗や、ある種の苦さ、やりきれなさを残す情感はやはり望めません。

 

二人の朝練風景でもいいから「完全に成功した演奏」を聞かせてほしかったという印象もやはりありました。最後にあるんじゃないかと思ってエンドロールを注視していたら、そのまま明るくなってしまってちょっとガッカリしたのを覚えています。

 

あと細かい点を挙げれば、僕はあまり詳しくないのですが、高3の夏の時点で音大志望するかしないかみたいな話をしているのはちょっと遅すぎるのでは? と思ってしまったり、新山先生の「鳥は飛び立てたかしら?」とかいう『true tears』の石動乃絵か何かみたいな台詞が、なんだか怪しい自己啓発セミナーのカウンセリングみたいに聞こえたり、まあでも、そのぐらいでしょうか。

 

 

全体としては、いまひとつ盛り上がり切らない感もありながらも、細部までよく作り込まれた素晴らしいアニメ作品であることは間違いないという感じの映画でした。

個人的には、 みぞれが「大好きのハグ」を希美にねだる場面がもうありえないほどかわいくて、その部分だけで1500円分の価値は確かにありました。キスもセックスもありませんが、同性同士の慕情を、きわめて官能的に描き出した百合映画だと思います。